ケーススタディ(一般論)

相次相続控除の「純資産価額」には何が含まれるか
非課税枠・小規模宅地等の特例・課税価格との違い

相次相続控除の計算式に出てくる「純資産価額」が、生命保険金の非課税枠や小規模宅地等の特例を適用した後の金額なのか、申告書の「課税価格」とどこが違うのかを、通達と申告書の様式に沿って整理しました。

本ページは一般的な整理であり、個別の事案への当てはめは、前の相続・今回の相続の申告書などの資料を確認したうえで行う必要があります。法令等は2026年10月14日時点で確認しています。

結論

先に結論

「生命保険金の非課税枠や小規模宅地等の特例を適用した後の金額」という理解は、方向としては合っています。純資産価額は、非課税財産を除き、小規模宅地等の特例による減額も反映した取得財産の価額に、相続時精算課税適用財産の価額を加え、債務と葬式費用を差し引いた金額です(相続税法基本通達20-3)。

ただし、「課税される価格」=申告書の課税価格と読むと、厳密には3点ずれます。暦年課税の加算贈与を含まないこと、基礎控除や税額軽減などは関係しないこと、農業相続人がいる場合は評価が異なることです。

純資産価額の組み立て

取得財産の価額
(非課税財産を除く・小規模宅地等の減額後)
+ 相続時精算課税
適用財産の価額
- 債務・葬式費用= 純資産価額
(赤字は0)

申告書では第1表の「④純資産価額」にあたります。詳細タブの2章へ

項目ごとの影響(一覧)

項目純資産価額への影響
生命保険金・退職手当金の非課税枠反映済み 非課税分は課税価格に算入されない
墓所・祭具・公益事業用財産などの非課税財産反映済み
小規模宅地等の特例反映済み 減額後の価額を使う
債務・葬式費用控除する
相続時精算課税適用財産加算する 令和6年以後の贈与分は基礎控除後の額
暦年課税の加算贈与(相続税法19条)含めない 課税価格との違いはここ
基礎控除影響しない
配偶者の税額軽減・未成年者控除・障害者控除影響しない 税額から引く控除のため
農地等の納税猶予(農業相続人がいる場合)評価が異なる 特例農地等は農業投資価格で評価した第3表の④を使う

根拠の条文・通達は詳細タブの3章へ

ずれる3点

課税価格と読むときの注意
  • 課税価格とは同じではありません。相続開始前3年以内(令和13年1月1日以後の相続は7年以内)の暦年課税の贈与財産は、純資産価額に入りません。第1表の④であり、⑥課税価格(④+⑤)ではありません。
  • 「等」に基礎控除や税額軽減を含めると不正確です。これらは純資産価額に影響しません。ただし、前の相続で課せられた税額(計算式のA)には影響します。
  • 農業相続人がいる場合は、第1表の④ではなく第3表の④を全員分について使います。

主な確認事項

  1. 前の相続の申告書第1表の④の額(前の相続の純資産価額)
  2. 前の相続で、小規模宅地等の特例を適用していたか、未分割で未適用だったか
  3. 前の相続で実際に課された相続税額(配偶者の税額軽減等の後の額)
  4. 今回の相続が前の相続の開始から10年以内か(1年未満は切り捨て)
  5. 今回の相続で農業相続人(納税猶予の適用)がいるか

確認事項の全件は詳細タブの5章へ

1 質問への回答(詳しく)

質問

国税庁のタックスアンサー(相次相続控除)に出てくる「純資産価額」は、生命保険金の非課税枠や小規模宅地等の特例などを適用した後の、課税される価格という理解でよいか。

回答

方向としては合っています。ただし、「課税価格」と同じ意味で使うと、次の3点でずれます。

  1. 暦年課税の加算贈与は含まれません。相続税法19条の加算(相続開始前3年以内、令和13年1月1日以後の相続は7年以内の贈与)は、純資産価額の外側にあります。
  2. 基礎控除・配偶者の税額軽減・未成年者控除・障害者控除は関係しません。基礎控除は課税遺産総額の計算で、残り3つは算出税額から差し引く控除であるためです。
  3. 農業相続人がいる場合は評価が異なります。特例農地等を農業投資価格で評価した第3表の④を、全員分について使います。

国税庁ページの説明について

国税庁のタックスアンサーとそのQ&Aは、純資産価額を「相続した財産から債務・葬式費用を控除した額」と説明し、計算式のBでは「取得財産の価額+相続時精算課税適用財産の価額-債務および葬式費用」としています。非課税枠や小規模宅地等の特例には触れていないため、疑問が生じやすい箇所です。実際には、次の2章・3章のとおり、これらは取得財産の価額にすでに反映されています。

小規模宅地等の特例が反映されるといえる理由

相次相続控除の箇所に「小規模宅地等を考慮する」と書いた通達や質疑応答は確認できません。次の連鎖から、反映されると解されます。

措置法69条の4第1項
課税価格に算入すべき価額=減額後
→ 付表1の⑧
→ 第11表
→ 第1表の①
→ ④
→ 第7表の計算

相続税法20条自体が「課税価格に算入される部分」を基準にしているため、減額後の額が使われます。前の相続側(B)も「課税価格計算の基礎に算入された部分」なので同じです。

2 申告書の様式との対応

第1表の欄内容相次相続控除との関係
①取得財産の価額(第11表から)小規模宅地等の減額後・非課税財産を除いた額
②相続時精算課税適用財産の価額令和6年以後の贈与分は基礎控除後の額
③債務及び葬式費用の金額差し引く
④純資産価額(①+②-③、赤字は0)第7表のB・C・Dに使う額
⑤純資産価額に加算される暦年課税分の贈与財産価額使わない
⑥課税価格(④+⑤、千円未満切捨て)使わない

第7表(相次相続控除額の計算書)の「前の相続で取得した純資産価額」の欄には、前の相続の申告書で④にあたる額を記入します。今回の相続側の各人の額は、第1表の④(農業相続人がいる場合は第3表の④)を使います。

3 根拠条文・通達の整理

3-1 計算式

相次相続控除額 A × C ÷ (B-A) × D ÷ C × (10-E) ÷ 10
ただし C ÷ (B-A) が100%を超えるときは100%とします。

3-2 条文・通達

3-3 令和6年度改正との関係

4 前提によるケース分け

前提扱い
前の相続で配偶者の税額軽減により納付税額が0Aが0となり、相次相続控除は算出されません。Bは軽減前の純資産価額、Aは軽減後の税額という構造です。
前の相続が未分割で小規模宅地等を未適用のまま申告したBは未適用の額です。3年以内の分割で更正の請求等をした場合は、実際の分割に基づく額になると解されます。
今回の相続が未分割民法の相続分で課税価格を計算して申告し、小規模宅地等の特例と配偶者の税額軽減は適用できません(措置法69条の4第4項)。申告期限から3年以内に分割すれば特例を受けられます。相次相続控除の再計算を明記した一次資料は確認できていませんが、税額全体が再計算されるため、控除額も再計算されると解されます。
先順位の税額控除で相続税額が0になる相次相続控除は受けられません(相続税法基本通達20の2-4)。
農業相続人がいる特例農地等を農業投資価格で評価した第3表の④を、全員分について使います。
三次相続以降控除できるのは、今回の被相続人が直前の相続で負担した相続税額に限られます(相続税法基本通達20-4)。

5 確認事項の全件

  1. 前の相続の申告書第1表の④の額(前の相続の純資産価額)
  2. 前の相続で、小規模宅地等の特例を適用していたか、未分割で未適用だったか
  3. 前の相続で実際に課された相続税額(配偶者の税額軽減等の後の額)と、他の税額控除の有無
  4. 今回の相続が、前の相続の開始から10年以内か(1年未満は切り捨てて年数Eを計算)
  5. 今回の相続の各取得者(受遺者を含む)の第1表の④の額
  6. 今回の相続で、相続放棄をした人や相続権を失った人がいるか
  7. 今回の相続が分割済みか未分割か
  8. 今回の相続で農業相続人(納税猶予の適用)がいるか
  9. 相続時精算課税の適用を受けた贈与財産があるか(令和6年以後の贈与分は基礎控除後の額)

6 出典

主な出典(2026年10月14日確認)